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【報告】第1回 4つ葉プロジェクト勉強会

第1回 4つ葉プロジェクト勉強会レポート


講師:淑徳大学教授 柏女霊峰さん

ただ今紹介にあずかりました、柏女と申します。千葉にある淑徳大学で教授しております。 事前に杉山さんと打ち合わせをしましたが、1時間ぐらい私の方からお話をさせていただき、40分くらい質疑応答の時間にしようと思います。

子育て支援という凧を高く揚げるために

今、「子育て支援」は風が吹きつつありますが、風が吹いたときに風になびく凧を用意しておくことが大事です。また凧を高く高く揚げるためには、風があることも大事です。もうひとつ風が吹いたときに、上手に凧を揚げる人が必要です。よい凧を作るためにも、よい揚げ手に揚げてもらうためにも、お金も必要になります。

神奈川県立保健福祉大学の山崎先生が、かつて私に「子どもの財源、子育ての財源を政策的に確保しておくことが大切である。私たちがそれを考えるから、中身(つまり凧ですね)は柏女、あなたたちが考えなさい」と、おっしゃっておりました。

そして、この凧を揚げるための風が必要です。これにはNPO、行政などいろんな人たちの力が必要です。もちろん揚げる場所も必要です。揚げ手の人材養成も必要です。

私は「子どもの支援」という風が吹いている今、「どんな凧を上げるべきか?」ということを主として研究しています。

では、こども家庭福祉とは何かを考えてみましょう。

資料(1)参照。

三枚目を見てください。ご存知の通り出生率は年々下がっていますが、保育所の入所希望者が増加しています。しかし保育園の数は増えない。

また、虐待が増加している表がありますが、その中で注目するべきは特にネグレクトが増えていることです。ネグレクトとは特に子どもに対して何もしないことですね。このことから、今、社会は、「子どもを生まない」に加えて「育てられない社会」になっているのではないかと考えられます。

児童福祉法と現実のずれ

なぜそのようなことになったのでしょうか?

昔は、子育てというのは親だけが育てるのでなく地域でするものでした。地域のつながりがない子どもは、児童養護施設などで保護して、施設で育てていたのです。これが戦後の児童福祉であり、そのよりどころとなった法律「児童福祉法」です。

ところが現在は、みなさんもご承知のとおり、地域で子育てすることがものすごく困難になっています。

地域で子育てを前提に、それができない子どもに対しては、児童福祉法で守りましょうという考え方でずっとやってきて、いつの間にか前提にあった「地域」がなくなってきてしまった。にもかかわらず、法律は戦後のまま、施設化を打ち出したまま変わりませんでした。ですので、地域にはまったく目を向けず、施設化ばかりに重点がおかれるようになってしまったのです。

介護保険制度を参考に、支援メニューを体系化してみる

近年、行政も方針を転換し、「子育て支援」をメインに施策を打ち出しましたが、それはどちらかというと施設である保育所中心に行なわれてきました。エンゼルプラン、新エンゼルプランなどがそうです。

つまり子育てを支援するプロが保育園などの専門機関にしかおらず、専門機関以外で、地域のなかで子育てを支援する人はボランティアしかいない状況で子育て支援施策が図られたのです。給料をもらっている施設の保育士と、ボランティアで地域の子育てサービスしている支援者では力の差があるのは当然です。

差があるため母親たちは地域の子育て支援サービスより保育園に頼みたいと思うようになり、待機児はどんどん増え、施設に子育てを依存してしまうという現象が出てきたわけです。

これは過去の介護保険ができる前の老人福祉施設の入所待機問題とかわりません。こうした認識から、介護問題をヒントに子育て問題へ応用できないか?と考えたわけです。 例えば介護施設待機問題については、ゴールドプランを策定し、まず施設に頼るのでなく「在宅介護」を推し進めました。

そこで子育てにもそれを応用できないかということです。ヘルパー派遣(ベビーシッターや産褥シッターの派遣)、ショートステイ(短期間の預かり)、デイサービス(つどいの広場など)を在宅福祉三本柱として法定化し、子ども・子育て応援プランに広げていくのはどうか?ということを考えたわけです。

一方、虐待などを受けて特別に保護が必要な子どもたちへの対策、「要保護児童対策」については、改革が行なわれ、今まですべて都道府県が責任の主体でしたが、まずは児童相談を身近な市町村が受けていこうということなりました。

それを県などの専門家が支援する形になっています。これが要保護児童対策における市町村の役割強化といいます。今まで市町村と都道府県とが別々に行なっていた支援施策を、チームワークを組んで少しつつ歩み寄ろうとしているわけです。

しかし、これらの政策を進めていく上で問題なことがあります。財源はどうするか?ということです。

具体的には子ども・子育て応援プランで、広場を6000箇所、5年後に整備するといっていますが足りないのが実情です。現状の施策を少しずつ改善していっても、限界がある。しっかりした財源を確保しなければ、どうにもならないところまできているのです。これが、みなさんたちが4つ葉プロジェクトを立ち上げたきっかけでもあろうかと思います。

人材確保「少子化対策」から始まったエンゼルプラン

さて、日本のこれまでの子ども家庭福祉はどうなっていたか、ちょっとおさらいしてみましょう。

平成2年の6月にいわゆる1.57ショックがおきましたが、子ども数が減るのは昭和49年から続いていいました。しかし1.57ショックを機に平成2年から子どもの施策の討議が国会で始まりました。

ちょうどその時期、国会では高齢者対策が議論されており、そこにふってわいたのが少子問題でした。大変なことになった、高齢者対策をどんどん進めていっても、高齢者を支えてくれるはずの若い人がいないということで少子化を実感としてはじめて捉えることができたわけです。

つまり「高齢者を担う子どもたち」という、いわば「人材確保」の文脈から少子化が捉えられているわけです。年金、医療、介護を担う人材を確保するための、「少子化対策」ということです。

そこで進められたのがこれらを担うことができる子どもの施策、「健全な子ども」、「働ける子ども」の保育施策です(エンゼルプラン)。具体的には保育園の待機児童対策になどです。ここでは、母子家庭や障害児などのことは忘れられていました。そして、去年のクリスマスイブに出された子ども・子育て応援プラン(新新エンゼルプラン)で、やっとこの問題も同じ子どもの問題として盛り込むことができたのです。

なぜ子ども関連予算が狙い打ちされたのか

では、財源はどうするのでしょうか? それを考えるきっかけになったのが、いわゆる税制三位一体改革です。去年の夏、小泉首相が「3兆円の税源を国から地方に移しましょう。権限も移しましょう。ついては補助負担金を3兆円分廃止していいと思いますが、その事業の候補を挙げてください」と言いました。そこで、地方6団体が挙げてきたのが、義務教育費であり、次世代育成支援に関する予算でした。3兆円のうちほぼ半分が子どもに関するお金でした。それに危機意識を持たれて、杉山さんたちが、わたしや東大の汐見さん、神野さん、浅野宮城県知事などを呼んでシンポジウムを開催したわけですが、「子ども予算狙い撃ちじゃないか。違うんじゃないか」と言っていますが、それは、ある意味自然の流れとして出てきたのではないかと思います。

つまり高齢者や障害者は個人に補助するしくみがつくらていますが、子ども施策は事業主に対して補助しているのです。事業者に補助して定型化しているものは、一般財源しても良いのでは?というのが地方に移譲しようという理由なのです。

例えば高齢者が要介護5であれば個人が月に約35万円程度の費用を個人で使うことができる。選択してサービスを受けることができるわけです。この人にはどんなサービスの組み合わせがいいかということについては、ケアマネージャーがサービスの使い方を指南してくれますが、最終的には本人が決めます。そして、費用の1割は本人が払うという仕組みです。後は40歳以上の国民が納めている介護保険料から費用が出るわけです。 

しかし子どもは違います。例えば昼間「保育に欠ける」0歳児となると、国の保育単価では、今一人あたま大まかに保育費用は15万円かかっているのですが、そのお金を直接、親に差し上げて、そこから保育園に直接支払いますということにはなっていません。

介護保険のようにケアマネの子育て版の「子育て支援専門員」がいろいろなサービスメニューのなかからどんな支援がよいか、個別に計画をたてますから、保育園にお金を使うのか、つどいの広場に使うのか、幼稚園かどこでもよいですよ、という風には、なっていません。今は保育所、預けた事業主に対しての補助になってしまっているのです。

施設に補助するのであれば、何も国が渡さなくても、自治体が直接補助したって変わらないじゃないかというのは、確かにそのとおりなんですね。一方、児童手当は一般財源化の候補には挙がっていませんでした。これは、施設ではなく、個人に直接与えられるものですから。

しかし、そうなると矛盾が出てくる。子どもの福祉財源は地方から出費され、大人になると国の財源でケアがされるということになるわけです。

例えば虐待を受ける子どもがいたとします。子どもの時は施設(全額地方財源)で育てられますが、大人になって生活ができなくなってしまった場合の生活保護は、国の財源(7割負担)による支援となるのです。

そのどこが問題かというと、子育ての支援が一般財源化してしまったら、子育て支援に熱心な自治体とそうでないところができる。熱心なところには子どもが沢山集まりさらに費用がかさむ。ところがその子どもが大きくなりその自治体に支援をして支えてくれるのかというと、大人になると財源は国が負担するので、がんばって子育て支援をやってきた自治体でも、そうでない自治体でも平等に支援を分配されてしまいます。子育ての熱心さに関わらず、平等に高齢者の支援をしていくことになるわけです。

これでは、地方自治体は子育て支援を熱心にやろうという気にはなりません。子育て支援の工夫や競争を促す地方分権が、逆に作用することになってしまう可能性があるのです。

プリントにあるように、子どもの支援は

  1. 都道府県と市町村が分断されている(特に要保護児童対策)
  2. 施設中心
  3. 職権保護中心(当事者同士が向き合えない)
  4. 保健、福祉、医療、教育委員会という風に分断されている(総合施設の動きが進んでいる
  5. 税中心(一部に保険)
  6. 事業者給付中心

なわけです。 高齢者とはまったく違います。

そして、人間の一生涯をいったいどこがサポートするのかという観点から見ても、子どもの時期は地方、高齢者は国と、福祉を分断する提言が地方からなされているのです。

子どもと大人の福祉の仕組みを「分断しないで取り組める仕組みをどう作るか」というのがとても大切です。具体的には、介護保険や支援費制度のような仕組みを子どもに応用できないかを考えていくこともひとつの方法でしょう。子どものニーズに本当に合ったものにするための研究を私は考えています。

子育て支援施策の財源を一本化する

まず子育て支援施策の基本的方向は、バラバラな財源の仕組みを一体化していくことが大切だと思います。 どれぐらいバラバラかというと、たとえば育児休業制度ひとつをとってみても育児休業中の所得保障は雇用保険から出されているため、企業も負担してるわけで、たくさんの人が育児休業を取得したら、企業の負担が多くなってしまう。しかし、0歳児保育を充実させれば(これは相当の保育コストがかかるわけですが)、そのお金は税でまかなわれているわけですから企業の負担は少ない。

私は社会保険料負担を子育て中でない一般の人たちからも徴収し、事業主の負担も入れて、税も投入し、それらをまとめて大きな財布を作り、子どもの人数で分配することがよいのではないかと思います。もちろん必ずこのお金は子どもに使い、その他のことには使わない。

このように入り組んだ財源を一本化してを整合化させていくべきだと考えます。

参考になるのが障害者自立支援法の動き

では子育て支援施策の今後の方向や財源をどうするか?費用負担の在り方はどうすればよいでしょう?

育児保険という考え方があります。私は専門ではありませんがこれもひとつの方向だと思います。しかし、育児保険は保険の原則的な考え方「リスクの分散化」にはなじまないのでないか?という議論があります。親の子どもを養育する義務が果たせなくなるのはあるのではないか?という考え方もあります。

厚生労働省かまとめた「社会連帯による次世代育成支援に向けて」(2003年8月)では、次世代育成支援のための会費をすべての一般の人たちから広く徴収し、事業主の負担も入れて、税も投入し、それらをまとめて大きな財布を作り、子どもの人数で分配することを提案しています。

今国会では、障害者自立支援法案の議論をしている最中ですが、この法案に伴う児童福祉法の改正では、子どもの場合、施設に補助がいく仕組みではなく、直接契約にしてはどうか?という案が出ています。障害を持った子どもたちの支援はこの法律によりどころを持っていますので、そうなると、障害児の支援は、直接契約の仕組みになります。 こうなると、おなじ「子ども」であるのに「障害あるか」「ないか」で財源や制度が分断されてしまうのです。そういった分断させないためには、やはり新たな仕組みの構築の必要性が迫られていると思います。

今、私の所属している研究会では、児童福祉法の改正についての試案を作ったりして、凧づくりを進めています。一方で、財源については、保険の可能性、あるいは税(消費税など目的税)の話も出ています。

又、資格についても子育て支援専門員などの専門職新設や、保育士、幼稚園教諭の資格は同じにしてはどうか?などの議論も大急ぎで進めなければなりません。こういう研究は今後さらに大事になっていくと思われます。戦後に根幹ができあがった子ども家庭福祉、子育て支援の仕組みはいよいよ抜本的改革の時期を迎えているのです。

:::::::::::::::::::::質疑応答::::::::::::::::::::::

Q 「学童保育の三分の一の費用を企業が出している」というのはどう事ですか? 厚生保険特別会計とは?

企業の従業員の給料の全部をあわせた数の1000分の0.9を「厚生保険特別会計」として拠出することになっています。そのうちの1000分の0.2をを児童育成事業というサービスに使っており、それが学童の費用となっているわけです。残りは児童手当で小学校3年生までほとんどの人がもらっていると思います。 児童育成事業とは、乳児保育、延長保育、学童保育、などのことです。ベビーシッター1500円補助されますがそれもここからでています(ただし親が社会保険に入ってない場合は補助されません)。この特別会計は、厚生年金を払っている企業は全部が拠出しており企業の規模は関係ありません。

Q.育児保険になったとして、個人にお金を渡すとなると基準はどのようになると思われますか?

子どもの状態や保育に欠ける度合いになると思います。ランクは3段階程度、要支援、要保育、全時間型という形でしょうか?そのうちの例えば「要保育」の中は今の仕組みを今の流用となると考えられます。

Q.母子手帳の費用は?

母子手帳は税、検診などの券は健康保険から出されています。

Q.今子どもを育て若いお母さんの悩みは子どもの教育費の問題です。どのように考えていらっしゃいますか?

奨学金をどうしていくか?が問題だと思います。例えば親の所得などで奨学金を出すのでなく個人に与えるしくみがあるとよいのでは?奨学金の制度の改革をすればよいのではないかと考えます。また、ニートの問題などと合わせて考えていけばよいのではないでしょうか。

Q.現在、障害者自立支援法の制定が進んでいるとのことですが、事業主給付から個人給付に変わるとどんな問題点があると思いますか?

    1. 今は応能負担(サービスの多い少ないではなく、その人の負担能力に応じて負担する)、個人給付は応益負担(サービスの多少に応じて、負担能力に関係なく負担する)になる。一部負担金を支払えない人がでてくるので、減免などを検討する必要がある。
    2. 介護保険のように上限が定められてしまうと、施設に戻らざるを得ない人も出てくる可能性があるのではないか。
    3. 障害の対象が狭いため、アスペルガー障害や注意欠陥多動障害のような発達障害者が対象からはずれてしまうことにはならないか。
の3点です。

Q.今後のこのプロジェクトに期待することはなんですか?

毎回固まった人ではなく、いろんなメンバーがいる方幅が広がってよいのではないか? 立場の違う人たち同士のゆるいつながりがあるとよいのではないか? と考えます。



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